(通勤や休憩時間に最近読んだ小説)浅田次郎

浅田次郎 「シェラザード」(上)(下)
浅田次郎 「日輪の遺産

あとがきによると「日輪の遺産」は、氏が「プリズンホテル」シリーズを書きながら、それまで書いていたユーモアピカレスクものからの脱却を図った手始めの一冊と言うことになるらしい。2つの本に共通なのは、前の大戦時の秘匿作戦に関わった軍人やその作戦に巻き込まれた人たちの回想と、その後日談に関わった現在の語り手たちの動きを交互に描いていること。(「壬生義士伝」なども多少形は違うけれど、そんな流れを継いでいるような。)

日輪の遺産」は過渡期にあるような、多少もたれるような感じ読後感もするのだが、笑っているうちに登場人物たちのまっすぐな懸命さ、誠実さにホロリとさせられる。終戦の日の衝撃から託された使命に押しつぶされつつ、ただ待っていることしか出来なかった老人の気持ちはどんなものだったのか、想像することも私には難しい。

「シェラザード」の方は実際にあった「阿波丸事件」の「なぜ?」から書かれているけれど、つかの間のまるで夢のような豪華客船の船旅と海の男たち。そしてその夢の航海が破れたときの哀しさ。(事件の結末自体は悲惨なものなのだが。)最初に読み終わった時の衝撃は、読んでいた電車の中で涙がこぼれそうになるほどのものだった。(電車の中で読むなよという批判はちょっと置いておいて)